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大阪地方裁判所 昭和63年(ワ)2662号 判決

原告

司馬清

被告

株式会社さんわ

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告に対し、六六〇万八六八五円及びこれに対する昭和六〇年一一月二七日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを六分し、その五を原告の負担とし、その余を原告らの負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告に対し、四〇〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年一一月二七日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和六〇年一一月二七日午前一〇時五五分ころ

(二) 場所 大阪市大正区三軒家東三丁目一一番三四号先路上(市道、以下、「本件事故現場」という。)

(三) 加害車両 軽四輪貨物自動車(登録番号、和泉四〇に四六一九号)

右運転者 被告西絃一郎(以下、「被告西」という。)

右所有者 被告株式会社さんわ(以下、「被告さんわ」という。)

(四) 被害者 原告(昭和一六年九月二三日生)

(五) 態様 被告西は、加害車両を運転して前記道路を北から南に向かつて進行中、折から訴外三吉工業の入口を出て本件事故現場を横断していた原告に、加害車両を衝突させ、右衝突の衝撃により、原告を路上に転倒させて傷害を負わせた(以下、「本件事故」という。)。

2  責任原因

(一) 被告西の責任

被告西は、本件事故現場において、前記道路東側に接して訴外三吉工業の出入口があり、右出入口に人の出入が予想される場合、減速徐行をし、前方の安全を確認してから進行すべき注意義務があつたにもかかわらず、これらを怠つて漫然と進行して、本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条に基づき、本件事故により原告が被つた損害を賠償する責任がある。

(二) 被告さんわの責任

被告さんわは、本件事故当時、加害車両を所有してこれを自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条に基づき、本件事故により原告が被つた損害を賠償する責任がある。

3  損害

(一) 原告の受傷内容、治療経過及び後遺障害

(1) 受傷内容

右脛骨関節内骨折、右腓骨骨頭骨折、右肘・顔面擦過傷、頭部外傷Ⅰ型(右眼瞼、後頭部挫創)、右下腿骨折、両肘関節及び左下腿擦過傷、外側側頭靱帯機能不全、右膝関節拘縮

(2) 治療経過

〈1〉 昭和六〇年一一月二七日から昭和六一年二月二日まで医療法人きつこう会総合病院多根病院に入院(六八日間)

〈2〉 昭和六一年二月三日から同年八月二二日まで同病院に通院(実日数二七日間)

〈3〉 昭和六一年六月二一日から同年七月一一日まで阪南中央病院に通院(実日数一五日間)

〈4〉 昭和六一年七月二四日から昭和六二年三月五日まで大阪厚生年金病院に通院(実日数六〇日間)

(3) 後遺障害

原告は、昭和六〇年一二月二日前記多根病院において膝関節手術(腸骨移植)を受け、右治療経過のとおり各病院に入通院したが、前記傷害は完治するに至らず、昭和六二年三月五日、大阪厚生年金病院において、右脛骨関節内骨折後、膝関節拘縮、外側々副靱帯機能不全、右膝関節痛、右膝関節屈曲制限(他動自動共、屈曲一一〇度、伸展マイナス一〇度)、及び右膝関節の不安定感等の後遺障害を残して症状が固定した。右後遺障害については、自賠法施行令二条別表に定める第一二級七号(右膝関節の機能に障害を残すもの)及び同第一二級五号(骨盤骨に著しい奇形を残すもの)に該当し、併合して第一一級に該当する旨自動車保険算定会大阪第三調査事務所において認定されている。

(二) 損害額について

(1) 治療費

原告の前記治療のために一四三万九三〇〇円の費用を要した。

(2) 入院雑費

前記六八日間の入院期間中に一日当たり一三〇〇円、合計八万八四〇〇円の雑費を要した。

(3) 通院交通費

前記通院日数一〇二日間に要した通院交通費が、別紙(一)の通院交通費明細のとおり、合計一六万二七四〇円であつた。

(4) 休業損害

原告は、本件事故当時、「志はや鉄工所」の屋号で、主として開繊機の組立、加工修理業を営み、昭和六〇年一月一日から本件事故日である同年一一月二七日まで三三〇日間に六二二万二六八〇円の収入を得ていたところ、本件事故による受傷のために事故日である昭和六〇年一一月二七日から症状固定日である昭和六二年三月五日までの四六四日間休業を余儀なくされたので、その間に九三一万一八八九円の休業損害を被つた。

(算式)

6,622,680÷330×464=9,311,889

(5) 後遺障害による逸失利益

原告は、本件事故当時、前記営業により年収七三二万五〇八五円を得ていた。右営業においては、原告が、一人で、機械の設計、材料・部品の購入、工作機械による加工、溶接、組立、運搬等の作業のすべてを行つていたが、右作業は、作業場所の足場が悪く、溶接や機械加工・組立をするには無理な姿勢をとつたり、高い所へ昇らなければならなかつたり、さらに重量物を運搬したり、扱いを慎重にしなければ巻き込まれる危険性のある開繊機を操作したりするなど、複雑な重労働であつたところ、右後遺障害のため、原告は、足の踏んばりがきかなくなり、歩行にも困難をきたすようになつたため遂に右営業を廃業せざるを得なくなつた。

その後、原告は、昭和六二年九月から豊邦工業株式会社に勤務し、月額二四万円、年収二八八万円の収入を得ていたが、昭和六三年四月に退職し、平成元年三月一三日からは株式会社キムラ商事に勤務し、月額二〇万円の収入を得ている。

そうすると、原告は、前記後遺障害により、事故当時の年収七三二万五〇八五円と、事故後の年収の多い方をとつても二八八万円との差額である年額四四四万五〇八五円を、症状固定時の年齢である四五歳から六七歳までの就労可能期間である二二年間にわたり喪失したことになるから、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して症状固定時の現価を算出すると、六二六四万四五八二円の得べかりし利益を喪失したものというべきである。

(算式)

(6,622,680÷330×365)-2,880,000=4,445,085

4,445,085×(15.045-0.952)=62,644,582

(6) 慰藉料

前記受傷内容、治療経過、後遺障害の程度その他諸般の事情を考慮すると、原告が本件事故によつて受けた精神的、肉体的苦痛に対する慰藉料としては、五〇五万円(内訳、入通院分一八九万円、後遺症分三一六万円)が相当である。

(7) 弁護士費用

原告は、本件訴訟の提起及び追行を原告訴訟代理人らに委任し、その費用及び報酬として四〇〇万円を支払うことを約した。

4  損害の填補

原告は、被告らから本件事故による損害の賠償として合計九三〇万七七四九円の支払を受けた。

よつて、原告は、被告ら各自に対し、七三三八万九一六二円の内金四〇〇〇万円、及びこれに対する不法行為の日である昭和六〇年一一月二七日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

1  請求原因1は認める。

2  同2の(一)は否認するが、同(二)は認める。

3  同3の(一)のうち、原告の後遺障害につき、自賠法施行令二条別表に定める第一二級七号及び同第一二級五号に該当し、併合して第一一級に認定された点は認め、その余は不知、同(二)は全部否認。

原告は、逸失利益の主張につき差額説によつているが、事故当時の年収自体が事故後の確定申告の所得額であつて信用性に乏しいうえ、症状固定後の年収も、同年齢の平均賃金と比較して極端に低く、かつ、年月の経過又は転職によつて将来の収入増加も見込みないわけではないので、右年収の差額をもつて逸失利益算定の基礎とするのは相当でない。

なお、自賠責保険において認定された併合一一級のうち、一二級五号の認定は腸骨骨片採取による骨盤骨変形に関するもので、労働能力喪失とは関係なく、関節機能障害についてのみ、労働能力喪失率表に従い、一二%程度の喪失率と、喪失期間も、比較的軽微な等級に留まつていることから、将来の改善あるいは同化も予想されるので一〇年間程度が相当である。

4  同4は認める。

三  抗弁

1  過失相殺

原告は、三吉工業建物出入口から路上に出て、当該道路を横断しようとしたが、右建物出入口の北側に普通貨物自動車が駐車して、北側道路の見通しがきかない状況にあつたから、右駐車車両の横で一旦立ち止まつて、北側(右方)道路の安全を確認した上で横断すべき注意義務があるのに、これを怠り路上に飛び出した過失があるのに対し、加害車両の速度は、衝突後一・二メートル進行したのみで停止しており、せいぜい時速一〇ないし一五キロメートルであつたことが明らかであるから、損害賠償の算定に当たつては、原告の右過失を斟酌して少なくとも八割の減額がなされるべきである。

2  損益相殺

原告は、被告らから、合計九三〇万七七四九円の支払いを受けている。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1は否認する。

被告西は、交通閑散な歩車道の区別のない生活道路を進行するにあたり、前方一五・九メートルの地点に、三吉工業の出入口及びその地点に原告を現認し得たにもかかわらず前方注視を怠り漫然と進行を続け、前方四・五メートルの地点で始めて原告を発見して本件事故を惹起させたものであるから、被告西の過失は明らかである。

他方、原告は、右道路を加害車両の速度の約五分の一位のゆつくりした速度で横断しようとしたものであるから、原告の落度はとるに足らないものである。

2  同2は認める。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1の事実(本件事故の発生)及び同2の(二)の事実(被告さんわの運行供用者責任)は、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、被告西の責任について検討する。

成立に争いのない甲第二号証、甲第二三号証、本件事故現場附近を撮影した写真であることに争いのない検甲第一号証ないし第四号証、原告本人尋問の結果、及び弁論の全趣旨並びに同趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一号証を総合すれば、以下の事実が認められ、右原告本人尋問の結果中この認定に反する部分は採用できず、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

1  本件事故現場は、概ね、別紙(二)の図面記載のとおりであり。アスフアルト舗装された、平坦な歩車道の区別のない、幅員七・〇メートルの南北に通じる中小の工場の密集した工場街の中の道路であつて、交通は閑散としている。なお、右道路は速度の規制はなく、本件事故当時、路面は乾燥していた。

2  右道路の東側には、道路に接して三吉工業の建物(工場)の出入口があり、本件事故当時この出入口の扉は大きく開かれてあつて、右出入口の両側(北側と南側)には、北側に別紙(二)の図面〈A〉表示の駐車車両(小型トラツク、以下「〈A〉車」という。)と、南側に同図面〈B〉表示の駐車車両(普通乗用車、以下「〈B〉車」という。)の二台の駐車車両があつた。

また、道路西側にも道路に接して工場の建物があり、この出入口の扉も大きく開かれてあり、右工場の前附近には、同図面〈甲〉表示の原告所有車両(普通乗用車、以下「〈甲〉車」という。)が駐車していたため、〈A〉車と〈甲〉車の間の通行可能な部分は相当狭くなつていた。

右道路を北から南に進行してきた車両からの見通しは、前方は良かつたが、右方は〈甲〉車の為に、左方は〈A〉車及び〈B〉車の為に、いずれも良くなかつた。しかし、三吉工業及び西側の工場建物の出入口の扉は、ともに大きく開かれてあつたから、同図面〈1〉の地点まで進行してくると、〈A〉車と〈B〉車の間及び〈甲〉車の向こう側(南側)が工場建物の出入口になつていることは確認可能であつた。

3  被告西は、加害車両を運転して、時速約二〇キロメートルの速度で、右道路を南進して前記〈A〉車の手前約一〇メートルの別紙(二)の図面〈1〉点附近にさしかかつた際、前記のとおり、道路の両側に〈A〉車、〈B〉車、〈甲〉車の三台の自動車が駐車しているのを認めたが、附近に歩行者は見当たらなかつたのでそのまま進行し、約一一・四メートル進行して〈A〉車の右側方に約四五センチメートルの間隔を保つ状態で〈A〉車の後部附近の同図面〈2〉点に達したとき、〈A〉車直前から道路西側に向かつて横断しようとしている原告を同図面〈ア〉点附近に発見し、急制動の措置をとつたが間に合わず、自車前部を横断歩行中の原告に衝突させ、原告を前方約二・八メートルの同図面〈乙〉点附近に跳ね飛ばし、自車は衝突後約一・二メートル進行して停止した。

4  原告は、三吉工業の工場内から〈A〉車の前を通つて、自己の車両である〈甲〉車に行くべく道範を横断しようとして本件事故にあつたものであるが、〈A〉車の陰から横断を開始するに際し、一時停止も左右の安全確認もしていない。

なお、被告らは、事故当時の加害車両の速度は、衝突地点から停止地点まで一・二メートルしか進行しなかつたことから、せいぜい時速一〇ないし一五キロメートルであつたと主張するが、右距離のみでは速度の算出は不可能であるから、右主張は採用し得ない。

甲第二号証(実況見分調書添付の現場見取図)によると、加害車両の停止距離は五・七メートルであるところ、右距離から空走距離の四メートルを減じ、乾燥したアスフアルト舗装路面の摩擦係数を〇・五五として計算すると、時速約一六キロメートルと算出され、右摩擦係数を〇・八〇と変えて計算すると、時速約一九キロメートルと算出されることから、加害車両の速度を一〇ないし一五キロメートルとする被告らの主張は採用できず、乙第一号証記載のとおり、約二〇キロメートルと認めるにつき矛盾はない。

右認定の事実によれば、被告西は、原告が〈A〉車の陰から出るのとほぼ同時位に原告を発見しており、被告西に原告の発見を遅滞した過失があると断定することはできないが、三吉工業及び西側工場の建物出入口は、いずれも大きく開かれており、工場の従業員や右駐車車両の運転者等が駐車中の〈A〉車の陰から横断することは予想可能であり、しかも右駐車車両のため道幅が狭くなつていて、この間を通過する場合は駐車車両の至近距離を通過しなければならないのであるから、自動車運転者としては、事故の発生を未然に防止するため相当程度減速・徐行して進行すべき注意義務があるのに、被告西は減速・徐行をすることなく従前の速度のまま漫然と進行して本件事故を発生させたものであるから、同被告には、本件事故発生について過失があつたものといわざるを得ない。

従つて、被告西には、民法七〇九条に基づき、本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

三  原告の受傷内容、治療経過、及び後遺障害について

請求原因3の(一)のうち、原告の後遺障害につき、自賠法施行令二条別表に定める第一二級七号及び同第一二級五号に該当し、併合して第一一級に認定されたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第三号証ないし第一四号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一号証、及び原告本人尋問の結果、並びにに弁論の全趣旨を総合すれば以下の事実が認められ、これを左右するに足りる証拠はない。

1  受傷内容、治療経過

原告は、本件事故直後、医療法人きつこう会総合病院多根病院に運ばれ、右脛骨膝関節内骨折、右腓骨骨頭骨折、右肘・顔面擦過傷、頭部外傷Ⅰ型(右眼瞼、後頭部挫創)右下腿骨折、両肘関節及び左下腿擦過傷の傷害を受ていると診断され、事故日である昭和六〇年一一月二七日から昭和六一年二月二日までの間六八日間入院治療を受け、右入院中の昭和六〇年一二月二日に右膝観血関節形成術(骨盤の腸骨から骨を採取して膝関節に移植する手術)を受け、さらに昭和六一年二月三日から同年八月二二日までの間、実日数二七日の通院治療を受けた。

その後、阪南中央病院に、昭和六一年六月二一日から同年七月一一日まで、実日数一五日通院して検査、リハビリを受け、さらに、大阪厚生年金病院で、同年七月二四日から昭和六二年三月五日まで、実日数六〇日通院してリハビリによる関節可動域改善訓練、四頭筋(大腿)を中心とした筋増強訓練を受けた。

2  後遺障害

原告は、前記治療経過のとおりの治療を受けたものの、完治するに至らず、昭和六二年三月五日の時点で、リハビリによる筋力増強、可動域改善も限界とされ、外側々副靱帯機能不全に対しては手術的再建術によつてある程度の効果は期待されるものの、原告本人が手術治療を希望せず、疼痛と可動域制限に対する治療法は考えられないとして、大阪厚生年金病院での治療は同日でもつて中止となつた。

大阪厚生年金病院松河光弘医師は、昭和六二年三月五日付で、原告の傷病名は、右脛骨関節内骨折後、膝関節拘縮、外側々副靱帯機能不全で、右膝関節痛、屈曲制限(右膝関節の屈曲度は、自動他動共一一〇度、伸展度は、自動他動共マイナス一〇度)、不安定感などの後遺障害を残しており、その症状固定日は同日である旨の診断をしている。さらに、同医師は、右後遺障害の増悪・緩解の見通しなどにつき、膝関節の不安定性は、関節軟骨に異常なストレスをきたし、変性をおこして、更に加齢による退行変性を助長し、疼痛増強、可動域制限の増悪をきたすなどの意見を付している。

四  損害額について

1  治療費

前掲甲第五ないし第一〇号証、甲第一二号証及び甲第一四号証並びに原告本人尋問の結果によれば、原告の治療のために一四二万九一〇〇円を要したことが認められる。

2  入院雑費

原告が六八日間入院したことは、前記三認定のとおりであるところ、右入院期間中一日当たり一三〇〇円の割合による合計八万八四〇〇円の雑費を要したことは、経験則上これを認めることができる。

3  通院交通費

前記三認定のとおり、原告は多根病院へ二七日間、厚生年金病院へ六〇日間、阪南中央病院へ一五日間の合計一〇二日間通院したところ、原告本人尋問の結果及び同結果により真正に成立したものと認められる甲第二六号証によれば、多根病院への最初の四日間だけタクシーを利用して片道七五〇〇円であつたが、あとの通院はバス、地下鉄、国鉄、近鉄などを利用して、いずれも片道、多根病院へは五九〇円、厚生年金病院へは五五〇円、阪南中央病院へは三二〇円であつたことが認められるから、原告は合計一六万二七四〇円の通院交通費を要したことが認められる。

4  休業損害及び逸失利益

成立に争いのない甲第二一号証の一ないし四、原告本人尋問の結果及び同結果により真正に成立したものと認められる甲第一五号証(官署作成部分は成立に争いがない)、甲第一六号証の一ないし二八、甲第一七号証の一ないし一二、甲第一八号証の一ないし五七、甲第一九号証の一ないし二六二、甲第二〇号証の一ないし二八によれば以下の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

原告は、昭和四〇年から原告の父親の経営する株式会社志ばや鉄工所に勤務していたが、右会社は昭和五八年六月に清算し、昭和五九年から、「志ばや鉄工所」の屋号で個人営業をするようになつたが、業務内容に特段の変化はなく、開繊機、電線の撚線機などの機械の加工、溶接、組立、修理、オーバーホールなどであり、材料の手配を含めて一切を原告一人で営んでいたが、本件事故により、事故の日の昭和六〇年一一月二七日から休業のやむなきに至り、前記認定のとおり相当長期間の入、通院の治療をうけたが完治せず、右膝に前記認定のとおりの後遺障害を残して昭和六二年三月五日症状固定した。原告の作業場は足場が悪く、ハシゴを昇つたり、重量物を持ち運んだりしなければならないところ、右後遺障害の為、業務に支障がきたし遂に廃業せざるを得なくなり、その後、昭和六二年一二月から昭和六三年四月末日頃まで豊邦工業株式会社に勤務して月額二四万円の給与を得ていたがそこも退社し、平成元年三月ころからは、株式会社キムラ商事(鉄工所)に勤務し、月額二〇万円の給与を得て現在に至つている。

(一)  そこで、事故の日から昭和六二年三月五日までの四六四日間の休業期間の損害を検討する。

原告は、当時の営業収入を、昭和六〇年一月一日から同年一一月二七日までの三三〇日間で六六二万二六八〇円を主張し、その証拠として前掲甲第一五号証を提出する。しかし、右申告書には、収入金額として一一〇七万八三六九円、経費として四四五万五六八九円が計上されているところ、右計上金額のうち、納品書、領収書及び振込金受領書(前掲甲第一六号証の一ないし二八及び甲第一七号証の一ないし一二)などで収入(入金)の証明があるのは九一九万九七八〇円であり、請求書や領収書(前掲甲第一八号証の一ないし五七、甲第一九号証の一ないし二六二、甲第二〇号証の一ないし二八)などで経費(出金)の証明があるのは四六一万七〇三二円であるが、右申告は、事故後の昭和六一年二月一九日になされたものであるし、複式簿記による記帳もないから、裏付け証明のない計上金額をもつて直ちに営業収入と認めるのは妥当ではないが、少なくとも、入金と出金とによつて収入と経費が証明されるところの九一九万九七八〇円と四六一万七〇三二円の差額四五八万二七四八円程度、即ち年収にして五〇六万八七九六円程度の収入はあつたものと判断される。

従つて、四六四日間の休業損害としては、六四四万三六二一円が相当である。

(二)  次に逸失利益について、原告は、事故当時の年収七三二万五〇八五円と豊邦工業株式会社での年収二八八万円の差額をもつて症状固定時から六七歳まで二二年間喪失したとして逸失利益を請求しているので検討する。

原告の事故当時の年収は(一)で判断したとおり五〇六万八七九六円程度である。前年の昭和五九年度の収入は、事故前の申告書(前掲甲第二一号証の一)によれば、わずか二六万五一四二円にすぎなく、株式会社志はや鉄工所は清算し、原告の営業も一年一一ケ月の実績しかないから、事故による後遺障害さえ残存しなければ稼働可能期間を通じて事故当時の収入が得られる蓋然性が高かつたとは認められない。

又、原告の業務は、免許資格を必要とする特殊技能でもなく、四五歳という年齢から転職、転業が困難とも思えず、廃業後の勤務先も短期間に変わり、収入も月額二四万とか二〇万とか定まらず、右収入も障害があるとはいえ、当時の平均賃金(昭和六二年賃金センサス産業計・企業規模計・男子労働者・学歴計四五歳ないし四九歳の年収五六六万八七〇〇円)と比較しても極端に低く、不自然で、いつまでもこの職にとどまつているとも思えない。

以上の事情のもとでは、事故当時の収入と、症状固定後の収入のいずれも固定的、恒常的なものととらえて、両者の差額をもつて逸失利益を算出するのは合理性に乏しく相当ではなく、後遺障害の部位、程度と被害者の年齢職業を総合的に勘案した労働能力喪失割合によつて逸失利益を算出するのが相当であり、算定の基礎とする収入についても、原告の収入に変動のあることは前認定のとおりであるから、事故時の収入をそのまま採用するのは相当でないが、原告は同年齢の男子労働者の平均賃金の八割程度の収入を得ることは可能であつたと認められるから、昭和六二年賃金センサス産業計、企業規模計・男子労働者・学歴計四五歳ないし四九歳の平均年収五六六万八七〇〇円の八割を逸失利益算定の基礎とするのが相当である。

そこで、原告の後遺障害であるが、認定を受けた一二級五号は腸骨々片採取による骨盤骨変形に関するものであつて労働能力喪失とは関係はなく、労働能力に関係するのは右膝関節障害であり、原告の年齢からするといまより有利な職業選択の道がとざされているとはいえないこと等を考慮すると、原告は本件事故による後遺障害により稼働可能期間を通じて平均してその労働能力の一四%を喪失したものと認めるのが相当である。

そこで、右数値を基礎にホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して原告の後遺障害による逸失利益の現価を算出すると九二五万六七六〇円の得べかりし利益の喪失による損害を被つたものと認めるのが相当である。

(算式)

5,668,700×0.80×0.14×14.580=9,256,760

5  慰藉料

前認定の原告の受傷内容、治療経過、後遺障害の内容及び程度等諸般の事情を綜合すると、本件事故によつて原告が受けた精神的、肉体的苦痛に対する慰藉料としては四五〇万円(内訳、入通院分一八〇万円、後遺症分二七〇万円)が相当であると認める。

6  過失相殺

前記一で認定した本件事故現場の状況及び本件事故の態様によれば、本件事故の発生については、原告にも、建物の出入口の左右に駐車する車両によつて見通しの悪い道路を横断するのに、駐車車両横で一時停止及び左右の安全の確認をしなかつた過失があつたものといわねばならないので、損害賠償額の算定に当たつては右過失を斟酌すべきであるが、前認定の被告西の過失の内容及び程度と対比すると、前認定の損害額から三割を減ずるのが相当である。

7  損害の填補

抗弁2の事実は当事者間に争いがなく、これによれば原告は九三〇万七七四九円の損害の填補を受けたことになる。

8  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告は原告訴訟代理人に本件訴訟の提起及び追行を委任し、相当額の費用及び報酬を支払い、または支払いの約束をしているものと認められるところ、本件事案の内容、審理の経過、認容額等に照らすと、本件事故と相当因果関係に立つ損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は六〇万円と認めるのが相当である。

五  結論

以上の次第で、原告の本訴請求は、被告らそれぞれに対し六六〇万八六八五円及び右金員に対する不法行為の日である昭和六〇年一一月二七日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 阿部靜枝)

別紙 (一) 通院交通費明細

多根病院への通院(27日間)

(1) タクシー代

7,500円×2×4日=60,000円――〈1〉

(2) バス(自宅~地下鉄八尾南)170円

地下鉄(八尾南~梅田)260円

国鉄(大阪駅~大正駅)160円

計590円

590円×2×23日=27,140円――〈2〉

厚生年金病院への通院(60日間)

バス(自宅~地下鉄)170円

地下鉄(八尾南~梅田)260円

国鉄(大阪駅~福島)120円

計550円

550円×2×60日=66,000円――〈3〉

阪南中央病院への通院(15日間)

バス(自宅~近鉄藤井寺)170円

近鉄(藤井寺~松原)150円

計320円

320円×2×15日=9,600円――〈4〉

〈1〉+〈2〉+〈3〉+〈4〉=162,740円

別紙(二)

〈省略〉

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